ぶりの照り焼き

何もない日を過ごした。

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今日はまた大阪にいた。

昨日急遽面接が決まった。

ここ一週間、というよりここ数日で大阪に何度行っただろうか。

スーツを着て、パンプスを履いて、人前で足を閉じて座る。

当たり前のことだが、環境が違うだけでこんなにも新鮮に感じるのだろうか。

今日の面接は緑地公園であった。

初めて行く場所だった。

感想はまたしても、イマイチだ。

帰り道、窓の外の景色を見ながら、もしうまくいけばここで働くのか、と思った。

約一時間半かけて通勤。しかも満員電車。

そのうち近くに引っ越すとしても最初の数か月は恐らくその状態が続く。

私にできるのだろうか。

まあ内定をもらえればの話だが…。

どちらにせよ今私が受けているのはすべて大阪である。

彼がまだこの家にいたときは、引っ越しも見据えて彼の職場との時間も一緒に調べていたものだ。

一人暮らしを宣言されてからもしばらくはどの職場も時間を調べていたし、近くの職場を選んでいた気がする。

もし別れて暮らすことになっても、近ければもしかしたらどこかでばったり会うかもしれないし、いつかよりを戻したら近い方がいいに決まっている。

なんて馬鹿げた未練がましいことを本気で考えていたものだ。

窓の外を見ながら、ふとそんなことを思い出していた。

緑地公園から堺筋本町までの時間は約30分だった。

一人で落胆した。

前までこれが自分の中で会社を決める重要な点だったはずだ。

いつの間にかそれも忘れて面接を受けるようになっていた。

もう彼との生活はあきらめたのか、

大阪だったらどこでも繋がっていると思ったのか、

それは私にもわからなかった。

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そういえば、数日前に彼から連絡があった。

内容は、就活の進捗状況についてだった。

通知を見た瞬間、心が跳ねた。

本当に跳ねたのだ。

彼が出て行ってからというものの、iPhoneの通知を前以上に気にするようになった。

彼からのラインを性懲りなく待っていた。

そんな時、待望のラインが来たのだ。

その気持ちとは裏腹に、返事はそっけなく返した。

ラインが終わりそうになると、

歯ブラシとか捨てていいの

とまるで彼を突き放すかのような話題を出して返事が少しでも来るように仕向けていた。

実際返事は来たが、その後もそっけない返事しかできなかった。

その甲斐もあってか、やり取りは5往復で終わったのだった。

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面接から帰り、ずっとNetflixを見ていた。

夕飯にぶりの照り焼きを初めて作った。

すこし辛かった。私は甘目の味付けが好きらしい。

彼も何度か作ってくれた。

おいしい、と思っていた。

彼の料理はいつもおいしかった。

だが、それ以外に何も感じなかった。

同棲する前は彼の手料理はたまにしか食べられなかった。

その時はもっと、おいしい、以外の感想が口をついて出たものだ。

同棲したての頃も、もっと感想を伝えていたはずだ。

いつの間にか、おいしい、とさえも言わなくなっていたかもしれない。

彼の料理は当たり前になってしまっていた。

彼自身、料理に文句をつけられるのは嫌がっていたから、それはそれで別によかったのかもしれない。

しかし、彼の週に2日しかない休日を作り置きのために時間を割いてもらっていたのだから、私はもっと何か言うべきだった。

せめて、いただきます、ごちそうさま、おいしかった、と伝えるべきだったのだ。

そして時には、いつもありがとう、と。

なぜこんな簡単なこともできなかったのだろう。

彼は私の召使ではなかった。

彼が言っていた 俺のものを大切にしてくれない というのは、単に借りている物だけではなく、丹精込めて作った料理も含まれていたのかもしれない。

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ソファでゆっくりしているとき、ふと顔をあげると時計が目に入った。

20時半だった。

今日は21時からカメラを止めるな!の放送がある。

映画館では見ることができなかったため、少しわくわくしていた。

その時、彼と一緒に見たかったなあ、と考えてしまった。

有り余る時間のせいかもしれない。

しかし、一度考え出すと悶々と頭に残る。

実際映画を観ていても、やはりずっとそのことを考えてしまっていた。

そして、ついに、ラインを送ってしまった。

内容は、この間のラインがそっけない態度だったかもしれない、という内容だ。

どうでもいいし、こんな内容送ってしまったら彼にどうとらえられるかわからない。

増してや今日は花の金曜日だ。

いつものバルにいるか、軽音の先輩たちと飲んでいるか、女といるか。

どれかはわからないが、だれかといるのは確実だろう。

そんなところに元カノからの未練がましいラインが届く。

それを送ったのは22時10分だった。

送ってすぐ後悔した。

誰といるかもわからないし、内容が内容だった。

そっけなかったかも、という割に、ごめん、の一言も添えられていなかった。

まずいことをした、と思った。

すぐに送信を取り消そうかと思ったが、せめて通知には気付いてほしいと欲が出てしまった。

22時半になっても未読なら送信取り消しをしようと思った。

しかし、すぐに返事は返ってきた。

気にしていなかった、と。

そりゃあそうだ。

付き合っているときからこんな返事だったじゃないか。

恥ずかしかった。

ならいい、とだけ返した。

どこまでも上から目線だ。

そこから今まで返事はない。

既読にもならない。

送る前も悶々とはしていたが、送った後のほうがもっと気分が悪かった。

まだ飲んでいるならいい。

もし女といたら?

未練がましい元カノからのラインなんて本当にどうでもいいし、私の心は見え見えだろう。

なんて恥ずかしいことをしてしまったんだろう。

いつになったらこんな未練がましいことをやめられるのだろう。

男の穴は男で埋めるな、などと聞いたことがあるが、私には無理らしい。

早くほかの好きな人ができないといつまでたってもこんなことを続けてしまうような気がする。

きっと彼はそんなことないだろう。

引っ越し前日の一言でなんとなく、そんな気がした。

彼にとっては本当にあの日が私との別れだったのだ。

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彼よりも早く相手を見つけて、見せつけてやりたいと思った。

でも、彼にずっと愛されたい、とも思った。

私は、彼を愛していた。

彼を愛する私も愛していた。