散髪
髪を約30センチ切った。
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彼が引越していってから、3週間が経った。
この1週間、私の心中は随分穏やかだった。
理由は、彼と連絡を取っていたからだろう。
家を片付けに来る日を土曜に決め、そこから何かしらずっと連絡を取っていた。
彼は食中毒で弱っていた。
それまではラインでも冷たい態度しか取れなかったが、徐々に慣れ、少し柔らかく返事できるようになっていた。
そして昨日。
彼は我が家にやってきた。
主な目的は、彼の残した荷物やゴミを片付けることだった。
しかし、それは家に来て早々、結局私がゴミに出す、ということで落ち着いた。
腹立たしかった。
これはいらん、と言い捨てた彼。
ラインの時点でも薄々勘付いていたが、彼は、私にさせる気満々だった。
それってどうなの?
もう彼の家では無い私の家に私物を放置し、その私物はいらないからゴミの日に捨てておいてくれ、と言う。
家に来てまでそのようなことを言うので呆れてしまった。
それに、今思い返せばプラスチックの衣装ケースだけが残っているのでは無い。
服のゴミも大量にある。
いま住んでる地域はどうかわからないが、私の実家がある地域では、燃えるゴミの日に服を出していたら突き返される。
あの三袋パンパンに詰まった服を私に小出しに捨ててくれと言うのだろうか。
本当に人任せな男だ。
本当に本当に呆れた。
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ゴミ問題が一応解決してから、彼は我が家で昼食を済ませた。
私が姉とした作り置きを見て、この中に食べていいおかず無いの?と聞いてくる始末。
家に来たのは14時半頃だったと思う。
我が家に来て早々、コーヒーを出せ、と言ってくるし、遊びに来てもらったわけでは無い。
できれば、家に長居してもらいたくなかった。
くつろいで欲しくなかった。
いつまでも自分の家だと思って欲しくなかった。
私の納豆と白米を食べて、彼はそれを片付けることもなく、ソファへ寝転んだ。
IKEAで一緒に買ったクマの大きなぬいぐるみ、ゲンこと源二郎を抱き抱えた。
友人の家に遊びに来たかのように寛ぎ、図々しく、私への態度も勝手に出ていった元恋人とは思えなかった。
いつまでもぐちぐち言うなと言われてしまいそうだが、私にとっては一から十まで大問題だった。
私がソファの前に腰掛けており、彼はソファに座り、私を背後から包み込むように座って抱きしめた。
何も言わなかった。
正直、何も感じなかった。
嫌な感じはした。
それは、この後おそらくセックスへ繋がるだろうと感じたからだ。
彼の中で私は元彼女という位置付けなのだろうが、私の中で彼はそんな単純なものではなかった。
案の定、行為に至った。
何も感じなかった。
彼は行為が始まってすぐ、こういうこと、した?と聞いてきた。
するわけがない、そんな尻軽に見られては困る。
だが、なんとなく、ひみつ。と答えた。
彼は、したんだ、と言った。
彼に、したの?と聞くと、
俺はしてない、と答えた。
嘘だ、と言うと、本当に、と答えた。
正直、本当に信用出来なかった。
今までそうやって裏切られてきたのだ。
今思えば、信用する、しないというのはもう関係の無いことだった。
そのあと、行為中に彼は一度私を可愛い、と言った。
もう別れており、彼を落胆させる心配をする必要はないのに、私はずっと演技をしていた。
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行為が終わり、彼はしつこく、他の男と寝たのか聞いてきた。
私はずっと、ひみつ、と答えた。
したか、してないかだけ教えて。と彼は言ったが、ひみつ。と返した。
必死に聞いてくる彼に、少しざまあみろと思っていた。
でも、今までこうやってしつこく聞いてくる時は、自分に非があった時だった。
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そのあと二人とも動画を見ながらうたた寝をしていた。
彼を私に、好きなん?と聞いてきた。
冗談っぽい言い方だったが、毎度何も答えなかった。
気持ちがわからないのが実際のところだった。
彼が帰ってからもしばらく何も感じなかった。
しかし、だいぶ時間が経ってしまってから、彼のことを少し恋しく思った。
何度も、もう好きだから隠さず行動するね、と伝えようか迷った。
しかし、卒ライの時にちぃちゃんに言われた、それは情。という言葉を思い返して踏みとどまった。
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彼と暮らしている時全然見つからなかったこたつのコードが今朝見つかった。
もう春だ。