その後

そして、2日。

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あれからもう2日が経った。

昨日は大学の後輩主催のライブがあった。

あきひさんに誘われた。

OB,OGはアウェイだったが暇すぎたので行くことにした。

みんな輝いていて、ひろやとあきひさんと私たちは老けたという話をした。

厳密にいうと、私たちは老化をしたわけではない。

運動する量が極端に減ったかもしれないし、それが故に体力は落ちたかもしれないが、ステージで輝く後輩たちのような輝きを、まぶしい、と感じてしまうのはそれが原因故ではない。

私たちがいつの間にか 諦める ことを覚えてしまったからだろう。

当時の私たちは、夜更かしすることですら楽しかった。

チェーンがかかった柵を足を上げて越えることは近道するのに不可欠だった。

友人と夜の公園で安い缶ビール片手にこれからの将来に対する不安をつらつらと話すことも楽しかった。

それを自分自身のことを老けたと思い込み、諦め、ときめかなくなった。

そして、日常と呼ばれる変哲もない日々を選び、自分にとっての非日常を楽しむ彼らを、自分も昔はそうだった、などとあたかも自分が大人になったかのように言うのだ。

それはただ羨ましいだけだ。

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彼と暮らし始めて半年を経った頃から頻繁に考えるようになったのは、彼に対してドキドキしなくなった、ということである。

彼と交際し始めたころは会えるだけで胸が高鳴ったし、体が少しでも触れようなら意識して色んなことを考えてしまっていた。

それがもうなくなり、これは熟練夫婦のようだ、と感じるようになった。

それは安心である。素晴らしいことだ。

彼がいれば何だって乗り越えられる気がしたし、彼がいない生活を考えることもなかった。

何だって話せたし、なんだって見せることができた。

友人でだってそんな人はいない。

つらい時につらいと伝え、胸を借りて大泣きすることができた。

うれしいことがあれば一番に彼に伝えるために文字を打っていた。

だが、ふとそんなことを考え出すと不安ばかりが能内に残った。

このまま一緒にいて何が楽しいのだろう、と。

否、楽しい。楽しいのだが、これで良いのかと思うようになった。

長い年月を共に過ごすことができたからというのは理解できているのだが、何かもやもやしたものがずっと残っていた。

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あれから、彼がいなくなった部屋に帰っても何も思わなかった。

泣かなかった。

普通に眠れた。

そんな自分が少し寂しかった。

もっと、想像していたようにぽろぽろと泣いてほしかったし、夜一人で眠れずNetflixを漁っていてほしかった。

確かに眠れず、夜更かしもしたしNetflixを漁ってはいたが、期待した寂しさは感じられなかった。

いなくなったら、いなくなっただけだった。

用があって連絡しても2時間以上返信がなくてもやもやしたが、生活は普通にできた。

そもそも1人暮らしをするつもりだったのだから、原点に戻っただけであった。

なんだかあっけなかった。

彼への不平不満はいくらでも出る。でもそれはただ私が強がっているだけだ。

私を残し新生活へ一歩踏み出した彼に嫉妬しているだけだ。

残された私の将来が不安なだけだった。

なんだか普通にやっていけそうだ。

1か月もしたら生活に慣れていたのだろう、と思っていたが、そんなに時間はかからなさそうだった。

むしろ彼がいなくなってから、5分で終わるようなものだが料理をするようになったし、リビングで毎回寝るようになったが布団は毎度起きたらちゃんとたたんで別の部屋へ片づけるようになった。

面倒な皿洗いもする。

確かに今は世間一般でいうニートな為時間が有り余っている。

だからできていることも多いが、元から私は一人だとある程度できる人間だったと思いだした。

友人、家族、恋人など頼れる人には頼る、これが私の悪いところだった。

だから彼は私との生活に不満がたまっていったのだ。

一人の生活も楽しい。

好きな時間にご飯は食べられるし、量も調節できる。

好きな時間に眠ることができるし、Netflixを少し大きい音量で観ていても誰にもとがめられない。

なんと自由な生活なのだろう。

だが、こんなことはきっと私なんかより彼のほうが実感しているに違いない。

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昨日家の鍵をなくした。もう夜中だった。

どうしよう、と考え不安でいっぱいだった。

その気持ちをSNSで発信したが、それは主に彼に向けられたものだった。

Twitterなんて最近裏垢しかつぶやいていないのに、彼もフォローしている方のアカウントでつぶやいた。

なんと女々しい、女なんだろう。

案の定連絡が来た。

そのころには落ち着いていたし、電車なんて通っていない時間だった。

だが、満足だった。

そっけない態度で返事をした。

最低な態度だった。

正直、よりを戻したいかはわらなかったが、彼にとって特別な存在であり続けたい、ことが明確になった。

私はこういう女だった。

いつだって彼にとって私は気になる存在で、助けたい存在で、愛している存在でありたかった。

最早執着である。

連絡は私で止めた。

彼が私の文章を読んで、別にあなたの助けはいりません、と感じてくれればそれが最高た。

いつから私はこうなってしまったんだろう。

恐らく彼がカギをなくしたつぶやいても私は連絡はしないだろう。

そんな時でも彼から連絡がくるのを待つ。

わかっている。これが通用するのは彼が私を愛している期間だけだ。

もうすぐ終わる。

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明日、朝から面接が2つある。

一つは南森町、一つは守口。

彼の勤める堺筋本町は目と鼻の先である。