さようなら
今日、引越しの日。
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昨日の夜、リビングで寝た。
もうラグも丸められて、無造作に詰められた段ボールを横目に見ながら寝た。
最後の最後にまっすぐ帰ってきてくれなかった事に腹を立てていた。
本当にこの日が来るとは思っていなかった。
怒涛の三週間だった。
何度も眠れない夜を過ごしたし
何度も泣いた。
三週間は短すぎたけれど、長すぎもした。
寂しさを紛らわせる為に分けた寝室もいつのまにか一緒になっていたし
話したくないと無視していたのにいつのまにかまた笑っていた。
隠そうと躍起だった恋心もいつのまにか隠していなかった。
あと数日、って言う時にキスをしたし、セックスもした。
セックスをした時は、特に何も感じなかったから意外と大丈夫かと思ったけれど、わたしの中では感情を伝えるには性行為よりフレンチキスの方が有効だった。
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昨晩、夜中に帰ってきた彼に抱きしめられ、
世界で一番好きだった
と涙ぐみながら呟かれた時、心がスッと冷めた気がした。
この最後にそんなことを言う無神経さ、この3年間が終わるという絶望、何より語尾が過去形である事に現実をつけつけられた気がした。
私のこと何度も裏切ってきたくせに、ずっと私を好きで、でも女の影は常にあった。
そんな彼が、本当に次へ進もうとしていることが感じられた。
こうしたのは私なのに。
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大学時代の約2年間、付き合って別れて付き合ってを数回繰り返し、
一年前の春、一緒に暮らす事になった。
そして同棲が始まって一ヶ月もしないうちに同棲前、浮気していた事が発覚した。
泣いてせがまれて、彼にとって一番辛い事である、別れを選んだ。
でもずっと一緒に暮らしていた。
いつのまにか許していた。
いや、許してはいなかった。今も。
だけどまた付き合って、夏から秋になるくらい、また別れた。価値観の違いで。
だけどまた付き合って、幸せに暮らしているはずだった。
でも、ずっと、いつか別れを告げられることはなんとなくわかっていた。
いつからだろう、彼の携帯を見ることが常習化してしまったのは。
女の勘とは素晴らしいもので、本当に、何か怪しいという嫌な予感がするのだ。
そんな時携帯を見ると必ず何か悪い知らせを得る。
問い詰めた時もあったが、見て見ぬ振りをした時もあった。
そして、今日からちょうど三週間前の土曜日。
離れて暮らしたい、と告げられたのだ。
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去年の3/3、私たちはこの街に引っ越してきた。
そして、今年の3/2、彼は一人で引っ越していった。
ちょうど一年だった。
あまりにもドラマチックすぎる。
でも、私たち二人がちゃんと別れられるのは初めてだ。
今まで別れたとは言え、大学に行けば会ってしまうし、その後だって家に帰れば居た。
今回は、別れと同時に物理的な距離が初めて出来る。
3/10にはOBライブがあるけれど、私はお世話になった方の結婚式の二次会にお呼ばれしているため行けない。
そうなると、本当に会う機会というのはなくなる。
卒業ライブが3/17にあるが、その時私のバイトが始まっていれば行けない可能性が高い。
それに、同期がおそらくたくさんいるし、話すタイミングは無いだろう。
いや、私が作らない、だろう。
目も合わさないし、話しかけられようもんならそっけない態度を取ってしまうだろう。
一番最初、付き合い始めた頃に逆戻りである。
彼は、別れるのではなく距離を置きたい、と言った。
それを私が、ここまで一緒にいて同棲もして、距離を置いたとしてまた一緒に暮らせるのか?と言った。それなら別れよう、と言ったのは、紛れもなく、私だった。
別れると決まった後も、彼は、戻れるなら戻ろう、と言った。無神経だと思った。
自分はこの家を勝手に出て行って、初期費用などでお金がどれだけかかろうと、ある程度のワクワクした生活が待っている。
だが私はこの家でしばらく暮らすしか無い。どこを見ても思い出に溢れ、広すぎる部屋は虚しさを感じさせる。
これは余談だが、一年かかってやっと終わったところなのに、今からってところで居なくなるし、仕事も辞めて不安で仕方ない時に居なくなるし、わたしは本当に踏んだり蹴ったり、という感じだ。
こんな時に居なくなってしまうなんて、人の心がない男だ。
私が支えてあげられるのも、支えてほしいのも、今なのに。
約2年間のお付き合いと約1年間の同棲生活は、たった三週間で決着がついてしまった。
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今朝、私を抱きしめてから家を出た彼は一度実家に戻り、レンタカーを借りに行って、11時前にお手伝いのいとこを連れて帰ってきた。
本当は10:30にはカフェに向かって出ているつもりだった。
今日は一度も目を合わせることなく、会話することなく終えるつもりだった。
その方が彼の記憶に切なく残ると思ったからだ。
最後までしつこいやつだ、私は。
でも少し寝すぎてしまって、出る準備をしている時に彼は帰ってきた。
言葉を交わしてしまった。
去年の誕生日に買ってもらった時計は返そうとリビングの段ボールの中に入れた。
だが彼はそれを見て、これは君のだ、と言った。
そういうことではないんだ。そういうことではない。
私は無視して家を出た。
初めて会ういとこは、玄関で立っていた。
恐らく前に私が引っ越しの際誰も家に入って欲しくない、と言ったからだろう。
私は出来る限りふつうの挨拶をして、寒いのにすいません、どうぞ中へ、と言った。
いとこは、気を遣わせてすいません、今後とも彼と仲良くしてやって下さい、と言った。
はい、とは言わなかった。笑ってごまかした。
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約1時間、カフェで過ごし、連絡もない為そろそろもういいかと思い家に帰った。
そこで私は家の鍵を持って出ずにいた事に気付いた。
最悪だ。
彼に電話すると、まだ搬出が全部終わってないから戻って来るらしいが、1時間以上は帰って来なさそうだった。
仕方ないのでさっきまで居たカフェにまた戻った。
優しそうな店員さんは私を見て、お忘れ物ですか?と聞いた。
いや、もう少し居させてもらっていいですか?
と答えた私はやけに惨めだった。
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それから約2時間。音沙汰なし。
出来るだけコンタクトを取らずに別れ、思い出でいっぱいの空っぽの家に戻って一人メソメソ泣くつもりだったのに。
でもそんな2時間もNetflixと、このブログの記事を書く事で退屈する事なく過ぎた。
ずっとマイヘアを流していて、ふとそちらの歌詞に耳を傾けると、グッバイマイマリーの
合鍵で開けても 君はいなかった
と椎木さんが歌っていた。
あまりにもタイミングがよくて、またまたドラマチックすぎる!と思った。
いや、私の言うドラマチックは、あまりにも悲劇すぎる!の間違いだった。
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もうすぐ3時になる。
普段の休みに比べて少し早起きだったから1日がすごく長い。
あんなにも休みが欲しかったのに、あるとなるとすごつ辛い。
何かを始めたいと思ってブログを開設した。
誰に見てもらう、という訳でもないけれど、私のポエマー気質を発散するには恐らく最適である。
彼だけがフォロワーのインスタグラムのアカウントがあるが、3週間前にブロックしてしまった。
二人の思い出が載っているアカウントだ。
こんな輝くあの頃の思いを見るのは私だけでいい。
それ以外にも二人の思い出を書いた日記もリビングの小窓に飾ってある。
最近、それを見返してその後思っている事を書いた。
ほぼ彼への八つ当たりだった。
彼は読んでしまっただろうか。
私の虚しい遠吠えを。
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昨晩、彼に夕飯を作った。
本当は適当なものにしようとしたが、ふと
オムライスは負けちゃうな~
と言っていた事を思い出してしまい、夜な夜な最後の夕飯を作った。
帰ってきた彼は、Netflixを見ながら洗濯物を畳む私を横目に
美味しい
と呟いていた。
聞いていないふりをした。