ヒトツキ。

引っ越してから1ヶ月が経っていた。

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私は彼と連絡を頻繁に取っていた。

そして遂に彼の家に行った。二度もだ。

一度目は、私が彼に会いたくなった。

二度目は彼が私を誘った。

ただのセフレになりたくなくて、気休めとはわかりながら、彼に 会いたいからきて欲しい と言葉にさせた。

本当に、言わせたも同然の為、彼の本心ではないだろう。

しかし、その時の私には必要だった。

私があなたに会いたいから行くんじゃないよ、と伝えたつもりだった。

駅から2分くらいのマンションだから、道は覚えてたけど、駅まで迎えに来てもらった。

会いに来て、と言われて、黙って家まで行くのは、本当に都合のいい出張セフレの様に感じたからだ。

二度目に至っては二泊もした。

彼はその二日の間何度も、私がまたこの街に来ることを匂わせる発言をした。

また来る時に大変やから駅からの道覚えておいて、とか

合鍵が1つも無いから、俺が仕事の間に作ってもっとけばいいやん、とか

誕生日だったから、給料が入ったらまた回転寿司でも食べに行こう、とか。

初めて彼の街に行った時は正直ワクワクしていた。

今後も彼との関係が約束された様な気がして。

でも、二回目彼の街に行った時は、これで最後だとなんとなく決めていた。

もしかしたら意志の弱い私だからまた来てしまうのかもしれないけど、彼の前ではそういった発言は出来るだけしたくなかった。

彼はバカ正直だから、女の影がある事を隠せない。

最初それが見えたのは 人にかけた言葉ですごく引かれた と言うので、純粋に 誰に と聞くと、少し黙ってから  一緒に飲みに行った子 と答えた。

なにも聞かなかった。

私には散々 あのツイートは誰のこと だとか 他の人とエッチしたん とか不躾な質問はしてくる癖に、自分は女との関係が見え隠れするとばつが悪そうにする。

私はそんな彼を見て、これで最後にしよう、と思った。

これまで何度も彼に裏切られてきて、何度も信じてきて、でもまた裏切られて。

これはいつまで続くんだろう。

果てしないこの繰り返しに今後私は耐えられるのだろうか。

彼の中でかけがえのない一人になる事はあるのだろうか。

残念ながら私だって一人の女だし、恋愛経験もそこまで豊富じゃないから、そんなことに耐えられない。

私と彼にとって、今というのは一緒に暮らしていた頃よりもナイーブなはずだ。

もう壊れてしまった関係、無くなってしまった関係、ただの友人よりも、もっともっとバランスの悪い関係だ。

彼はそんな大事な時期だということをわかっているのだろうか。

お互いの一言で、私たちのこれまでの3年間が本当に見てはいけない過去になるか良い経験だったのかに変わってしまうというのに。

私が繊細になりすぎているのかもしれない。

だが、彼の行動発言を見て、今までよりもはっきりと、これからの彼との未来が見えなくなった。

こういった異性関係の事だけでは無い。

何事にも自分のしたいことを最優先してしまう彼にも嫌気がさしていた。

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今までずっと一緒に居た事に後悔はしていない。

大好きだった。

お互い少しは成長できた。

なんでも話せた。

なんでも出来た。

お互い、お互いにすごく甘かった。

何度も壁を乗り越えてきた。

一生一緒だと信じて疑わなかった。

安心、そのものだった。

いい思い出が多かった。

わるい思い出の方が断然多かった。

でも、大好きだった。

本当に本当に大好きだった。

恋人だけど親友だった。

出会えて良かった、と思える人だった。

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二日目、これで最後、と思っていた私にとって、彼の家を出ることが本当に本当に名残惜しかった。

そう決めたきっかけも、思い出される思い出もわるいことばっかりなのに、その時私の中は彼を大好きだった気持ちでいっぱいだった。

しばらくして、彼が こんなんじゃ離れた意味ない と言った。

そんな事は言われなくてもわかっていた。

それに、彼と違って、少なくとも私はこれで終わりと心づもりしていた。

しばらくして、私は立ち上がった。

彼はそんな私の服を引いた。

帰る、あなたもそう言うことだし、という私に彼は、今日は遅いからいいじゃん、と言った。

その二日で唯一彼の名残惜しさを見た気がした。

なくもんかと、思ったのに、ボロボロ泣いてしまった。

寝てる間に見たスマホには女の影がいくつもあったし、私と違って本当に他の恋人を探している事に、心底悲しく思ってしまった。

でも、もう一緒にいるのは疲れてしまった。

泣く私を見て彼は、この1年間泣かせてばかりだね、と言った。

彼の中では一年の話だったのだろう。

一緒に暮らした一年が、私たちの別れた原因で、思い出なのだろう。

私にとってはこの3年間全てが忘れられない思い出だった。

3年間ずっと裏切られてきた。でもその分愛をもらった、はずだ。

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いま先ほど、桑原とはしことご飯に行ってきた。

私が、彼に対してもう諦めた、と言うと心底喜んでくれたようだった。

やはり、こういう人だったんだなあとおもう。

どれだけ成長しても、変わってないところはまったく変わらないし、軽音部からしたら特に、彼はそういう人なのだ。

あんなに大好きで、離れたく無いと願った人も、他の人からしたら全くそんな対象ではない。当たり前のことだけれど、やっぱり改めて感じた。

今その帰り道なのだが、かれに会いたい気持ちが高まる。

この段落から前は、行き道の電車で書いていた。

この数時間で、人の惚気話を少し挟んで、お酒が入ったくらいでこんなにも気持ちは揺れるものなのだろうか。

明日の朝になればまた気持ちは変わっているのだろうか。

それともBGMのwacciがそんな気持ちにさせているのだろうか。

なんにせよ、この決意は揺れやすい事を知った。

なんともむずかしいものだ。

それくらい、私は彼が好きだった。

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彼を世界で一番愛してしまう前に戻ってしまいたかった。